コラム

電蝕のメカニズムと対策・電蝕を考慮した設計

以前のコラムでは、電蝕(電食・腐食)に対する当社の方針を説明させていただきました。
今回は電蝕の詳しいメカニズムと、設計における注意点を記載いたします。
なお、ここで記載させていただく内容は一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)
レポート及び公演資料より抜粋したものです。


電蝕のメカニズム

電蝕は一般的に以下のようなメカニズムで進行する電気化学反応と考えられています。
(1) 高温高湿雰囲気下あるいは結露等により、水分が抵抗器の保護塗装を浸透して抵抗皮膜に到達する
(2) 水分が抵抗皮膜に付着した状態で通電すると、水が電気分解される
(3) このとき、イオン性不純物が存在すると、水の電気分解が加速される
(4) 水の電気分解によって発生した水酸化物(-)イオンが陽極(+)に移動し抵抗皮膜と化学反応する
(5) 抵抗皮膜の成分が変質し、物性が変化する
(6) 物性の変化により導電率が変化し、抵抗値の高化が引き起こされる

 

これを化学式で表現すると以下のようになります。
・炭素皮膜抵抗器の場合
H2O(l) → H+ + OH
C + 2OH → CO2(g) + H2(g) +2e
・金属皮膜抵抗器(ニクロムタイプ)の場合
H2O(l) → H+ + OH
Ni + 2OH → Ni(OH)2 + NiO + H2O
2Cr + 6OH → Cr2(OH)6 → Cr2O3 → 3H2O

 

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電蝕対策Q&A

Q1. 抵抗の負荷率は低い方が良いのですか?
A1. 必ずしも負荷率が低い方が良いとは限りません。
   電蝕は電気化学反応ですので理論上は電流量(電子の量)が大きい方が反応が早く進む
   ことが想定されますが、弊社が行ったプレッシャークッカーによる再現実験では、
   同一温度・湿度で、負荷率1%と50%を比較した結果、後者の方が抵抗値変化率が
   小さい結果が得られました。負荷熱により水分の蒸発・発散効果によるものと弊社では
   考えています。
   
Q2. 水分の侵入を防ぐために基板全体を樹脂で封入していますが、効果がありますか?
A2. 一定の効果は期待できますが、樹脂の扱い、抵抗の選定に注意が必要です。
   樹脂封入の際、基板や部品についている水分を十分乾燥させないと逆に水分を
   閉じ込めて電蝕の原因になることがあります。また、樹脂に含まれる難燃性成分や
   加水分解などで変質した樹脂が影響する場合もあります。樹脂封入が必要な基板には
   カーボン抵抗の高抵抗(一般的な目安は100kΩ以上)は使用せず、メタルグレーズ系の
   厚膜抵抗器を使用することをお勧め致します。

Q3.  電蝕対策としてはどのような抵抗器を使用すればよいですか?
A3. 耐電蝕性を向上させたカーボン抵抗(HDMシリーズ)や金属皮膜抵抗(RNVシリーズ
   などがあります。
   より高い信頼性が必要な場合は、抵抗体にメタルグレーズ系厚膜を採用した製品を
   お勧めします。原理上電蝕が発生しない抵抗体構造(→関連コラム)で断線に対する
   信頼性が極めて高くなっています。
   ・メタルグレーズ厚膜製品
     耐電蝕抵抗器  AECシリーズ
     耐サージ抵抗器 ASR/ASRMシリーズ
     厚膜チップ抵抗器 CRシリーズ
     耐硫化厚膜チップ抵抗器 CRAシリーズ

 


 

電蝕を考慮した設計

万が一電蝕が発生してしまった場合、抵抗器の抵抗値が大きく変化します。
その場合の故障モードはオープンモードですので、最悪の場合を想定し、
抵抗器がオープンになっても安全を確保できるようフェイルセーフ設計を行って下さい。
例えば、以下のような設計をしないことが重要です。

(例1)
直列の電解コンデンサの分圧抵抗に、電蝕しやすい抵抗(炭素皮膜抵抗の100kΩ以上など)を使わない。
万が一電蝕が起きた場合、抵抗器はオープンモードで故障します。
その結果、電解コンデンサの分担電圧が崩れ、可電圧や逆電圧で電解コンデンサが破損し、
発煙発火に繋がる可能性があります。

 

 

(例2)
電源回路の放電用抵抗に、電蝕しやすい抵抗(炭素皮膜抵抗の100kΩ以上など)を使わない。
万が一電蝕が起きた場合、抵抗器はオープンモードで故障します。
その結果、電源をOFFにした際、コンデンサに充電されている電気が放電されない可能性があります。
その状態でコンセントプラグに触れてしまうと、触れた人間が感電してしまいます。

 

 

これ以外にもオープンモードの故障で問題が起きる回路はたくさんあります。
そのような回路では電蝕しやすい抵抗器を極力使わない事が肝心です。
何かお困りの点があれば、お気軽に当社までご相談ください。

 

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